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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)13076号 判決

原告 株式会社日本家庭教師センター学院

右代表者代表取締役 古川隆

右訴訟代理人弁護士 長塚安幸

同 木下秀三

右訴訟復代理人弁護士 望月千鶴

被告 有限会社家庭教師協会

右代表者代表取締役 佐野清長

右訴訟代理人弁護士 高橋隆雄

同 木村眞一

同 名取康彦

主文

一  被告は別紙目録(一)記載の「入会案内」と題する出版物の発行及び配布をしてはならない。

二  被告は前項記載の出版物及び紙型を廃棄せよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを三分し、内二を原告の、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は「全日本家庭教師協会本部」及び「全日本家庭教師センター本部」なる表示を、パンフレット、案内物その他営業用出版物に使用してはならない。

2  主文一、二項と同旨

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  営業表示の使用差止請求

(一) 原告は、教育学、家庭教育に関する研究出版、家庭教育実習のための企画運営並びに家庭教師の派遣教授等を目的とする会社であり、わが国初の家庭教師専門機関として、家庭教師教育のシステム化を目指し、教育相談、家庭教育の研究並びに家庭教師の登録、養成、派遣及び審査等の営業を関東地方を中心に全国一円において行ってきた。

(二) 原告会社代表者古川隆(以下「古川」という。)は、昭和三六年五月から、和光学院の名称で、教育評論家として活動してきたが、その後右学院を中核として部門別に固有の名称を使用するようになり、昭和四四年八月頃から「日本家庭教師協会」、「日本家庭教師協会本部」、「日本家庭教師協会総本部」の名称を、昭和四三年一一月頃から「家庭教師センター」「家庭教師センター本部」(以上を総称して以下「原告営業表示」という。)の名称を営業表示として使用しながら前項記載の営業を行い、昭和四七年二月二日右学院を法人化して、商号を株式会社日本家庭教師センター学院とし、右各営業表示を使用しながら、同様な活動を行ってきた。

なお、右各部門の活動内容及び専従者の数は以下のとおりである。

イ 日本家庭教師センター学院

教育相談、家庭教師の登録、養成及び派遣五〇名

ロ 日本家庭教師協会

教育コンサルタント、有資格家庭教師の審査及び登録

一〇名

ハ サンシャイン家庭教師養成学院

家庭教師の養成及び研修

一〇名

ニ 日本教育士会

塾経営者の有資格審査及び登録

一〇名

ホ 日本家庭教育学会

家庭教育の研究

一〇名

(三) 原告営業表示は、古川がそれぞれ前記使用開始当初から朝日、毎日、読売等の各新聞、その他の教育関係の新聞、各種週刊誌、テレビ、ラジオにおいて教育相談及び宣伝活動を行って広く使用してきたため、教育関係者に周知され信用を得ていた。

(四) 被告は、受験指導、家庭教師の派遣等を目的として昭和四八年七月六日設立された会社である。

(五) 被告は、昭和五八年頃から「全日本家庭教師センター本部」「全日本家庭教師協会本部」なる表示(以下「被告営業表示」という。)をその営業に用い、各種パンフレット、案内文等に使用している。

ちなみに、被告は、被告営業表示使用以前にも、「日本家庭教師協会本部」なる名称を使用しており、昭和五七年九月頃の原告による厳重な抗議によりこれを中止するという経過があった。

(六) 原告営業表示と被告営業表示とは、酷似しており、一般の者がみれば、被告の行う事業が原告のそれと同一か、業務上及び組織上密接な関係があるかのように誤認混同することは明らかである。

(七) 被告の前記被告営業表示使用行為は、不正競争防止法一条一項二号の「他人ノ営業タル表示ト同一若クハ類似ノモノヲ使用シテ他人ノ営業上ノ……活動ト混同ヲ生ゼシムル行為」に該当する。

(八) よって、原告は被告に対して、不正競争防止法第一条第一項第二号に基づき被告営業表示の営業用出版物への使用の差止を求める。

2  被告パンフレットの発行差止等の請求

(一) 原告は昭和五一年三月、訴外株式会社毎日広告社を通して訴外株式会社社会行動研究所から得た調査結果を基に、別紙目録(二)記載のとおりの「家庭教師と予備校・進学教室・学習塾との比較」という題号の表(以下「原告表」という。)を著作した。

(二) 被告は、被告出版物である「入会案内」と題するパンフレットに別紙目録(三)記載のとおりの「家庭教師と学習塾・進学塾との比較」という題号の表(以下「被告表」という。)を掲載している。

(三) 被告表は、家庭教師に対し学習塾及び進学塾を、その特徴、長所、短所欄に分類して比較しており、原告の分類に類似しており、しかも、各欄に書かれている内容も、原告の内容そのままか、原告のそれを基本に若干の切除改変を施したもので、原告表に類似している。また、前記社会行動研究所調査を引用さえしている。

被告表は原告表の複製物に該当する。

(四) 被告は、原告に無断で原告表の題号及び内容の一部を切除改変している。

右は、原告の原告表についての同一性保持権を害するもので、著作者人格権の侵害に当たる。

(五) よって、原告は被告に対して、著作権法第一一二条に基づき被告表を使用した出版物の発行、配布の差止と同出版物及びその紙型の廃棄を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(三)の各事実は不知。

同(四)、(五)の各事実は認める。

同(六)は否認する。

2  請求原因2(一)の事実中、別紙目録(三)記載の「家庭教師と予備校・進学教室・学習塾との比較」という題号の表が原告の出版物であるパンフレットに掲載されていることは認め、その余の事実は不知。

同(二)の事実は認める。

同(三)の事実中、被告表は、家庭教師に対し学習塾及び進学塾を、その特徴、長所、短所欄に分類して比較していること及び社会行動研究所調査の名称を使用していることは認め、被告表が原告表の複製物に該当することは否認し、その余の事実は不知。

同(四)は否認する。

なお、被告は、被告表を掲載した「入会案内」を昭和五六年二月に五〇〇〇部印刷し、同年九月から昭和五九年五月までの間三〇〇〇部使用した後、改訂に伴い残部数を廃棄し、現在使用しておらず、右に使用した紙型も廃棄済みである。

三  被告の主張

1  営業主体混同行為について

(一) 原告表示は、いずれも営業表示としての表示力ないし自他識別力を欠き、不正競争防止法第一条第一項の保護に値しない。

すなわち、原告使用の各名称に共通する「家庭教師」の語は、「家庭に招かれて、その家の子女を教育する人」の意味の普通名称であり、またこれを除く「日本」「協会」「協会本部」「総本部」「センター」「センター本部」の語についても、それぞれ国名ないし組織の種類を示す普通名称であって、結局名称の要部ともいうべきものは存在せず、それ自体表示力ないし識別力を有しない。

さらに、これら普通名称からなる構成部分を結合した各名称を全体的に観察しても、なんら独自性を有しない単なる普通名称の結合で、それ自体の識別力は存在しない。

なお、普通名称による営業表示においても相当期間の使用実績を背景に識別力を具備する場合も有り得るが、原告においてかかる事情は存しない。

原告は、家庭教師派遣業界を独占し、同業界から一部業者を締め出そうとする意図のもとに、業界を代表するようなイメージを需要者に抱かせる思いつく限りの営業表示を使用しているが、右業界の現状はその官庁、法的規制も不明瞭なまま、多数中小企業間で相互にその系列化を含め熾烈な競争を続けているのであって、原告の使用する各名称は実態とかけ離れており、未だその名称の与えるイメージを備えておらず、自他識別力を獲得するに足る使用実績がない。

(二) 仮に前記識別力が認められるとしても、同表示は原告の営業表示として周知性を取得していない。

すなわち、各原告営業表示は、古川の肩書の一部ないし原告商号「日本家庭教師センター学院」の別称として付記表示されているに過ぎず、右使用方法からは古川個人ないし「日本家庭教師センター学院」が営業主体であることを認識させるのみである。

また、原告営業表示は、その外にも「日本私塾教育学会」「医歯薬ゼミナール」「東大ゼミシステム本部」などの名称と併記して使用されており、その営業表示は、多数名称の使用の陰に隠れ、これを認識し、受容する側の記銘力が薄れ、その結果、感銘力は希薄化し、結局周知性を具備するに至っていない。

2  著作権及び著作者人格権侵害について

(一) 被告表は、被告が自己の永年の教育事業の経験を踏まえてその独自の観点から作成した独自の著作物である。

(二) 原告表と被告表との類似点については、競合関係に当たる関連業間で自己の業界の優秀性を宣伝する方法として、他業界との内容、長所、短所を比較することは、一般に採用される方法であり、原告の分類、比較方法が特にその独創にかかるものとはいえず、同じ教育事業関係者であれば、類似業界の認識に関して類似した問題認識を抱くのは当然であって、その結果、当該認識の表現形式に類似箇所が現出することは怪しむに足らない。また、被告表中社会行動研究所調査として引用している数値は、被告において、同研究所に調査を依頼したことはないが、被告独自のアンケート調査結果を基礎として統計処理した数値であり、その権威づけのために同研究所の名称を使用したものである。

四  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張については争う。

第三証拠《省略》

理由

一  不正競争防止法に基づく請求について

1  《証拠省略》によれば、原告は、昭和四八年二月二日、教育に関する教課、教材、機器等の製作、販売並びに貸付等を目的として設立された株式会社であり、家庭教師教育のシステム化を目指し、家庭教師の要請及び派遣、教育相談等の事業を東京都新宿区百人町に本部を置き、豊島区東池袋及び埼玉県与野市に営業所を設け、営業を行ってきたこと、被告は東京都新宿区高田馬場に営業の主たる事務所を設け、他に都内に五箇所、東京周辺の三県に六箇所の分室を設けて営業を行っていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

また、被告が、受験指導、家庭教師の派遣等を目的として昭和四八年七月六日設立された会社であって、昭和五八年頃から「全日本家庭教師センター本部」「全日本家庭教師協会本部」なる表示(被告営業表示)をその営業に用い、各種パンフレット、案内文等に使用していることは、当事者間に争いがない。

従って、原告と被告とは、ほぼ同一地域において、同種の営業を行っているということができる。

2  そこで、原告が自己の営業表示として主張する「日本家庭教師協会」、「日本家庭教師協会本部」、「日本家庭教師協会総本部」、「家庭教師センター」、「家庭教師センター本部」の名称が、不正競争防止法第一条第一項第二号所定の「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル……他人ノ営業タルコトヲ示ス表示」即ちいわゆる周知性を備えた原告の営業表示といえるか否かについて判断する。

(一)  「家庭教師センター」、「家庭教師センター本部」の各名称について

まず、本件全証拠によるも、「家庭教師センター本部」の名称が、原告の営業を表示するものとして使用されたことを認めるに足りる証拠はない。

次に、「家庭教師センター」の名称については、《証拠省略》によれば、古川は、昭和四三年一一月「家庭教師センター」を創設したと称しており、また、昭和五〇年一月一三日付サンケイ新聞には、古川が家庭教師紹介業を創意し、これに「家庭教師センター」と命名した旨の記事が掲載されていることが認められる。しかし、他方、《証拠省略》(一七八頁以下)によれば、原告自身「家庭教師センター」という語を、原告の営業に限らず、家庭教師の斡旋、派遣等をする組織を意味する一般名称として使用していることが明らかであり、《証拠省略》に掲載されている昭和五二年五月一〇日付の慶応義塾生新聞においても、右語が同様の意味で使用されていることも認められるのであるから、先に認定した事実をもって、「家庭教師センター」の名称が、原告の営業を表示するものとして使用され、これが周知性を獲得したと認めることはできず、他に右事実を認定するに足る的確な証拠はない。

(二)  「日本家庭教師協会」、「日本家庭教師協会本部」、「「日本家庭教師協会総本部」の各名称について

《証拠省略》によれば、昭和五七年一〇月一日発行の東京二三区職業別電話帳生活編(下)には、「日本家庭教師協会」の名称で広告が掲載され、同広告中に右名称に付するように「日本家庭教師センター学院」の名称がこれより小さく記載されていること、「日本家庭教師協会」は、昭和四四年八月に古川によって設立され、家庭学習の指導や進学学力の診断を主たる業務としてきたこと、古川は、自己あるいは原告の宣伝パンフレットに、自身の肩書として「日本家庭教師協会会長」の名称も使用していたこと、さらには、右電話帳広告と同頁に掲載されている「日本家庭教師センター学院」の広告及び原告の広告パンフレットには、いずれも「日本家庭教師センター学院」の名称に添えて「申し込み先」として「日本家庭教師協会本部」なる名称が記載されており、原告及び古川個人のマスコミ活動を紹介した小冊子には、やはり右学院名に添えて「日本家庭教師協会総本部」と記載してあるものが数種類あることが認められる。

右認定事実によれば、右三個の営業表示は、原告と何らかの関係のある組織であることをこれを看る者に対して認識させることが推認できる。

しかし、右各証拠によれば、右三個の営業表示については、その異なる各表示の使用方法に統一性がなく、各営業表示に共通する「日本家庭教師協会」の名称が、原告の後援者として記載され、原告の営業の一部門の営業表示とはいえない形態で使用されている(甲第一三号証)こと、古川は、自己の肩書として「日本家庭教師センター学院長」の外に、「日本家庭教師協会長」、「全日本家庭教師協会長」、「全日本家庭教師センター連盟会長」、「日本教育士会会長」あるいは「日本私塾教育学会会長」等無数といえるほどの名称を併用していること、前記甲第一三号証(宣伝用小冊子)中には、その表紙に「日本家庭教師センター学院」の表示とともに原告営業表示以外の「システム医学研究所」、「全日本家庭教師センター連盟」「教育報道新聞社」等の組織名称が掲げられていることが認められ、原告のこのような営業表示の使用方法は、需要者または取引者に対して、各名称とその表示する営業主体との関係について混乱を生ぜしめるものといわざるを得ない。

のみならず、原告営業表示は、いずれも「日本」「家庭教師」「協会」「センター」のような一般的な概念を表現するために用いられるいわゆる普通名称の組合わせであることからみて、それが原告の営業を表示するものとし周知となることはかなり困難であるといわなければならない。

よって、先に認定した事実からは、原告営業表示は、いずれも原告の営業を表示するものとしての周知性を獲得したものとは推認することができず、外にこれを認定する的確な証拠はない。

3  以上によれば、原告営業表示は、いずれも未だ不正競争防止法第一条第一項第二号にいう「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル……他人ノ営業タルコトヲ示ス表示」とは認められないから、原告の本件被告営業表示の差止を求める請求は理由がない。

二  著作権侵害に基づく請求について

1  《証拠省略》によれば、原告の出版物である「日本家庭教師センター学院」と題する宣伝用パンフレット(甲第四号証、以下「原告出版物」という。)に「家庭教師と予備校・進学教室・学習塾との比較」の表題の下に原告表が掲載されていること、同表の右横にそれぞれ「家庭教師・学習塾の利用目的」、「家庭教師・学習塾の利用の満足度」と題する円グラフが掲載されており、右グラフの下には「(毎日新聞社・社会行動研究所調査)」の記載があること、原告は、昭和五一年三月に訴外株式会社毎日広告社(以下、「毎日広告社」という。)に対して「家庭教育に関する調査」と題する調査を依頼し、その調査結果を得たことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、原告は、独自の調査結果に基づいて原告表及び右円グラフを作成したことが推認できる。

よって、原告は、原告表を著作したもの、すなわち原告表の著作権を有することが明らかである。

2  被告が、被告出版物である「入会案内」と題するパンフレット(以下「被告出版物」という。)に別紙目録(三)記載のとおりの「家庭教師と学習塾・進学塾との比較」という題号の被告表を掲載していることは、当事者間に争いがない。

3  そこで、被告表が原告表を複製、利用したものであるかについて判断する。

(一)  被告が、被告表中で、社会行動調査研究所調査を引用していることは当事者間に争いがなく、しかも被告において同研究所に調査依頼をしたことがないことは被告の自認するところである。また《証拠省略》によれば、被告は、昭和五九年七月一二日付で同研究所宛に同研究所の名称を勝手に使用したことを詫びる書簡を送付していることが認められる。

以上の事実によれば、被告が被告表を作成するに当たって、前記円グラフを含む原告表を参照したことが推認できる。

被告は、被告表は、被告の独自の調査に基づくもので、その権威を持たせるため、同研究所の名称を冒用したに過ぎないと主張するが、同主張は、それ自体、不自然である上、これを裏付けるに足りる証拠もなく、採用できない。

(二)  次いで、原告表と被告表を対比して検討する。

(1) 原告表(以下罫線を使用して作成された表部分のみをいう。)は、家庭教師、予備校・進学教室、学習塾の三者をその特徴、長所、短所に分類して表形式で対比したものであり、特徴、長所、短所の各欄を横の罫線で区分し、特徴欄については、右三者について一括して一つの文章で各特徴が対比されているが、長所及び短所欄については、三者を縦の罫線で区分し、各該当欄にその長所あるいは短所が箇条的に記載されている。

これに対し、被告表は、家庭教師と学習塾・進学塾の二者を、やはりその特徴、長所、短所に分類して表形式で対比したものであり、特徴、長所、短所の各欄を横の罫線で、二者を縦の罫線で区分し、各該当欄にその内容が箇条的に記載されている。

(2) ところで右箇条的な文章は、両表とも特徴欄を除いていずれもかなり短い一ないし二文で構成され、各欄に二ないし三の箇条的文章が記載されている。

原告表が予備校・進学教室と学習塾に分類しているところを、被告表では学習塾・進学塾と一括しているが、右分類は、学習塾と学習塾は相互に対応し、予備校と進学教室は、進学塾に対応するものといえるから両表の形式は類似しているといわなければならない。

両表の各欄記載の記述内容の対比は、別紙対比一覧表のとおりであるが、特に長所、短所欄においては、原告表の合計一七の箇条的文中九(冒頭に*の記号を付した文)までがこれらと対応する被告表の箇条的文章と要旨のみならず用語の選択、いいまわし等の文章表現までが殆ど一致しているかまたは極めて類似しており、その余の八文中五(冒頭に△の記号を付した文)までが被告表のそれと要旨を同じくすることが指摘できる。

(3) 被告は、競合関係に当たる関連業間で自己の業界の優秀性を宣伝する方法として、他業界との内容、長所、短所を比較することは、一般に採用される方法であり、原告の分類、比較方法が特にその独創にかかるものとはいえず、同じ教育事業関係者であれば、類似業界の認識に関して類似した問題認識を抱くのは当然であって、その結果、当該認識の表現形式に類似箇所が現出することは当然であると主張するが、右主張の内容は一般的には是認できるところであるとしても、本件における原告表と被告表との前記類似は、右のように一般的に予想される類似性を遙かに超えるものであると認められ、このように類似した表が被告により別個独立に作出されるとは到底考えられない。

(三)  以上の点を総合すると、被告は、被告表を作成するに当たり、原告表を参照し、これを無断で複製した上、一部改変を加えたものと推認することができる。

以上によれば、被告による被告出版物の発行、配布は、原告が原告表について有する著作権(複製権)を侵害するものというべきである。

(四)  また、前項で認定した被告表中の記載内容は、原告表のそれを複製した上、一部改変して作成されたものであるという事実に、既に認定したところの原告表には「家庭教師と予備校・進学教室・学習塾との比較」という題号が付されているという事実及び当事者間に争いのない、被告表に「家庭教師と学習塾・進学塾との比較」という題号が付されているという事実を総合すれば、被告は、原告に無断で原告表の題号及び内容の一部を切除改変しているものと認められ、右は、原告の原告表についての著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものということができる。

(五)  前記3記載のとおり、被告が、被告出版物に被告表を掲載していたことは、当事者間に争いのない事実であり、被告が、被告表を掲載した被告出版物を少なくとも昭和五六年九月から昭和五九年五月までの間使用したことは、被告の自認するところであり、右事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告が今後も被告表を掲載した被告出版物を発行し、配布する恐れがあるものと認められる。

被告は、昭和五九年五月以後は、被告出版物をその改訂に伴い残部数を廃棄し、現在使用して居らず、右に使用した紙型も廃棄済みであると主張するが、右主張にかかる事実を認定するに足る証拠はない。

(六)  以上によれば、原告の被告に対する被告出版物の発行及び配布の差止及び同出版物及びその紙型の廃棄を求める請求は理由があるというべきである。

三  結論

よって、原告の被告に対する被告出版物の発行及び配布の差止及び同出版物及びその紙型の廃棄を求める請求を認容し、その余の請求を棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条、九二条を、仮執行宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 富岡英次 裁判官飯村敏明は転官のため、署名、捺印することができない。裁判長裁判官 元木伸)

〈以下省略〉

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